2019-01-01から1年間の記事一覧

勝ち負け論についての考察

経済社会的な劣位性に対し観念的な優位性を説くときに必ずある躊躇いが生じている。 確かに「勝ち組」「負け組」という判断基準には現実社会の搾取・非搾取の恣意性が認識されていない。生育環境のような外部要因も考慮されていない。 しかし「人生は勝ち負…

子宮頸がんワクチンの副作用

副作用否定派は子宮頸がんワクチンの副作用は因果関係が証明されず統計的にも有意ではないという。因果関係が証明できないのであれば統計的にどの「指標」でもって有意になるか分からないではないか。 潜在的なリスクがあるこそ、厚労省はリスク回避のために…

防災の自己責任論

日経新聞は防災も自己責任だと言う。つまり犠牲者たちは防災意識が足りなかったために被害にあったと言いたいのだろう。 10月14日の「もう堤防には頼れない」と題した記事によれば、堤防に水害を防ぐ効果はなく、堤防のかさ上げをしても人口減少が続く中…

トロッコ問題の正解

岩国市の小学校でトロッコ問題の授業をやり、校長が謝罪した。 「5人を救えるなら1人を犠牲にしても構わない。なぜなら5人の方が1人より多いから。」 この小学生でも分かる解答が保護者にも学校関係者にも完全に正解に思えたから、彼らは不安のクレーム…

皇室予算の推移

皇室の予算は71年間で626倍、物価は33.2倍になっている。 つまり皇室予算は物価の18.8倍のスピードで増額されてきたということである。 安倍政権の7年間だけ見ても皇室予算は73億円増えている。その一方で社会保障費は7年間で4.2兆円減…

消費増税について 19年9月30日

消費増税の目的は低所得者や零細事業者に身の程を思い知らせる事だろう。これは資本主義の自滅を意味する。 社会保障の財源やプライマリーバランスの黒字化のようなもっともらしい理由をつけているが、分離課税の廃止や金融取引税の創設を行わない理由は全く…

日韓問題の本質

慰安婦批判の本質は日本社会が対外的な加害者性を認識できない点にある。この加害者性の否認は国内的な被害者性が問題になる場合に阻害要因に転ずる。 慰安婦の「強制性」は当時の日本政府の方針として慰安婦政策が行われた事実にしかない。92年に公開され…

心的現象論 吉本隆明

幽霊のような静けさによって心的な世界はすべての事象と結び付けうるというが、逆もまた然りである。 吉本が言うように現実の世界が心像に有形・有声として関与できないのであれば、一般夢が民族や言語によって異なる多様性を説明できない。 自己妄想によっ…

表現の不自由展中止に関して

運営は安っぽい脅迫を建前にスポンサーに対する配慮から不自由展の中止を決定した。この対応は二重の意味で表現の自由を裏切っている。 文化庁や麻生グループの助成・協賛を受けながら行われる表現に自由はない。スポンサーの意向があるだけである。そして最…

人間の条件 ハンナ・アーレント

活動的生活の中で最高の地位を与えられた活動は古代ギリシアにおいてさえ可能性としてしか見いだせない。リアリティとしての出現の空間はアテネの栄光を永遠の記憶として物語を残したが、当の活動は危機に瀕して許しと約束による救済を求めている。 イエスは…

自衛隊・米軍一体化の目的

自衛隊と米軍の一体化はアメリカによる間接統治のオプションである。 自衛隊の憲法明記は集団的自衛権を行使するためだけではなく、自衛隊の軍事独裁=アメリカの別ルートを確保するために行われる。 自衛隊の前身である警察予備隊がポツダム政令で作られた…

桜島 梅崎春生

桜島に暗号特技兵として赴任することになった私はある町で耳がない女からそこ(桜島)で死ぬのねと死の予兆を受ける。桜島での軍隊生活は戦争によって心の中に鬼を住まわせた吉良兵曹長の死生観と人間が蛾のようにもろく亡んでいくことを「奇体に美しい」と言…

天皇制の性格

天皇制は共時的には自己疎外である。人間の自然化は現代においては市場化という自然的加工物への社会制度の解体として起きる。 類的本質としての天皇制は政治的危機の時代には自然の人間化よりも人間の自然化としての側面を強調してきたからこそ、自然の意識…

学校教育の目的

学校教育には社会的な義務の側面と個人的な権利の側面がある。 教育の段階が上がるにつれて義務の側面が強調され権利としての側面は義務を強化する補助的な役割を担う。名目的な権利の行使が義務を十全に果たすための内発性を生み出す。 教育は技能と主体性…

テクノロジーが介する性関係

トランス女性をレズビアン女性が受け入れないという「滑りやすい坂」議論は社会的性関係と個人的性関係の混同であるが、トランス女性に対する差別の根底にあるのは性事実(セックス)による性意識(ジェンダー)の搾取である。性の想像力を性の事実が搾取する構…

言語にとって美とはなにか

形式主義論争を無意味と評し内容と形式を自己表出で簡単につないでしまうが、吉本自身も認めているように言語の能率化は自己表出を歪ませ幻想性として抽出している以上その隔たりは表現にも影を差しているとみるべきだ。 沈黙と記号に分裂してしまった言語を…

夏の花 原民喜

妻の墓参りと原爆が「名称を知らない」夏の花として対比されている。 しかし原爆投下の際、語り手は便所にいて暗闇が滑り落ちる経験をしたが原爆の花は見ていない。妻の墓参りに持っていく花を「黄色の小さな花弁の可憐な野趣」と表現しているのとは対照的で…

歯車 芥川龍之介

「歯車」の本質は反復による自己表出の拡散・消失といえる。スウェーデン人の白黒のネクタイと出版社に依頼された日本人女性の白黒の印象、姉の夫=レエンコオトの幽霊と私と帝劇で目撃された私の間で起きる二重の反復は姉の夫の轢死=作家の死の予兆として…

規範化の結果

規範化は時間的秩序による抑圧であるが生活空間の拡張が行われた結果でもある。 規範化の表出経路に関係なく社会の流動化は時間的な秩序によって制御できるようなものではない。 時間的な秩序そのものが旧社会の発展の総体として捉えられず取捨選択を行い現…

金融自由化と社会の右傾化

1996年に橋本内閣が金融ビッグバンを提唱し98年に金融監督庁が分離される。93年に定期性預金、94年に流動性預金の金利が自由化され臨時金利調整法以来の金利規制が撤廃される。以降、外部資金調達における直接金融の割合は増え続けている。 この下…

結果としての選挙

選挙は原因ではなく結果である。政党や政治家が議席をどの程度獲得できるかは選挙以前の政治活動〈後援会活動・候補者選び・利益分配〉によって決まる。選挙によって政治が変わるのではなく政治が変わった結果として選挙で議席数が変動するのだ。 たとえば有…

情動の社会学 伊藤守

反原発の情動が尖閣問題の情動に取って代わられた原因やプロセスについて十分に語られていない。問題は情動的解釈項の違いがどこにあるかである。 同じく意識的知覚だと言ってしまうと、反原発の命題よりも尖閣問題の命題の方が情動的事実として優先度が高い…

星々の荒野から ティプトリー・ジュニア

ティプトリー・ジュニアの作家性は男性の暴力に虐げられる女性を通じた生命否定にある。 この作家は多産性に対する人類の自己嫌悪こそが女性に対する暴力の原因であるとし、嫌悪感にたびたび同調する。多すぎる人口が生態系に与える破壊は登場人物を悲惨な結…

自由からの逃走 エーリッヒ・フロム

自由主義体制は自動機械を、ファシズムは権威主義的性格を逃避のメカニズムとして生み出し利用している。消極的自由〈・・からの自由〉の結果、孤立した大衆が匿名の権威〈自由主義〉やサドマゾとしての死の欲動〈ファシズム〉に隷属を求めるようになった事…

大衆の反逆 オルテガ 

大衆は少数派に対立する平均人で、あらゆる階級に存在する。平均人とはすべての人と同じだと感じる人間を指し、現代〈1920年代〉とはこの平均人が自分が凡俗であるのを知りながら敢然と凡俗であることの権利を主張し、社会的権力を得た時代とされる。 大…

8050問題

この社会には40~64歳のひきこもりが61万3000人ほど存在する。50歳の子供を養っている80歳の親が死んだら子供の中高年のひきこもりは生活保護を受けるか札幌市の例のように孤立死するほかない。 札幌市の52歳の娘は自販機でスポーツドリンク…

アメリカのユートピア フレドリック・ジェイムソン

アメリカの連邦制を超える可能性は軍隊である。ジェイムソン以外の論者が指摘しているようにこのユートピア的提案に多くの問題がある。他者の象徴的空間はどうなるのか、国家権力との断絶をどうするか、性的な非中立性、労働と非労働の区別、政治の快楽と厳…

国会の形骸化

成立する法案のうち4分の3が内閣提出法案であるが、憲法にも内閣法にも内閣に法案の提出権があるとは書いていない。議案の提出権があるだけだ。 政府は議案に法案も含まれると「解釈」して提出法案を9割以上の確率で成立させている。法案の素案を書いてい…

丸山真男論 吉本隆明 1962年

荻生徂徠は政治学によって命と性を一致させる受動性(朱子学)を振り払ったが、同時に徂徠以前の仁斎の思想そのものや民の生活実感を吹き飛ばしてしまったらしい。 荻生徂徠の政治学の目的、町人の興隆から武士の没落を防ぐ、は貨幣経済の発展という意味では農…

法人税減税論の間違い

有識者は法人税を下げれば国際競争力が上がるという。しかしG7で最も法人税が高いアメリカは同時に世界一競争力が高い国である。一般的に考えられているように法人税を下げることで競争力が上がるわけではない。法人税を下げたくらいで競争力が上がるなら…