2021-01-01から1年間の記事一覧

「ビラヴド」トニ・モリスン

ビラヴド自身もセサやベビー・サッグスに相当する奴隷制の経験を背負っていると思われるが、ビラヴド視点での歴史は断片的な印象として語られるのみである。そのためベビー・サッグスの思い出に触発された「開拓地」の合唱がビラヴドを追い出してしまうラス…

「可愛そうにね、元気くん」古宮海

演じられる嘘としての恋愛とそれを超越した真実としての支配は対立している。前者が八千緑と廣田であり、後者はこの物語を最後まで支配(理解)していた鷺沢である。 鷺沢守は廣田元気が同人誌の被写体・八千緑と恋人関係になり、「理想的」な恋人を演じるこ…

「バービー」イ・サンウ

タイトルのバービーとはスジョンやバービーが大事にしている人形であり、これはスジョンや叔父が憧れているアメリカ人、マンウに言わせれば「宇宙人」、のイメージといえる。 主人公のスニョン(キム・セロン)は叔父の経営する海辺の民宿を手伝うことで父マ…

「ブルシットジョブ」デヴィッド・グレーバー

ブルシットジョブとは生産の自動化によりダミージョブとして生み出された情報労働である(p338)。公務員のような政府部門だけではなく民間部門においても無用な事務作業や管理業務が生み出されるのは「経済の内実がたんなる略奪品の分配方法と化している(…

「あなたが消された未来」ジョージ・エストライク

本書は生殖細胞系を編集するテクノロジーがそのあまりにユートピア的な語り口を通して身体や身体が存在することの意味を変えてしまう点について論じている。自身の娘であるローラの将来を心配する父親として、彼女を「できそこないの遺伝コードのたんなる一…

「超高層のバベル」見田

「重要なのはマスコミがなぜ報道するのか(p185)」というがサカキバラ事件のような不可解な事件を取り上げるメディアの不可解な権力性には無自覚である。 見田の社会分析には階級構造がすっぽり抜け落ちている。それが社会学という分野なのかもしれないが…

「民主主義の非西洋起源」グレーバー

グレーバーはイロコイ部族連合や海賊船の事例を出してハンティントン的「西洋的伝統」の優位性を相対化してみるが、「ヨーロッパ諸国が勢力を拡大し、大西洋システムが全世界を包み込んでいくにつれて、地球規模の影響力を持つものはすべて、それら各国の首…

「アウシュヴィッツのコーヒー」臼井隆一郎

筆者はナチスのユダヤ人絶滅政策をゲルマニア帝国の延長として捉えており、ドイツ領東アフリカで起きたマジマジ反乱の鎮圧にその先行事例を見出している。 一方でナチスが参考にしたゲルマニア帝国という目標を設定し「総力戦」の概念を形にしたルーデンドル…

「言語の牢獄」ジェイムソン

ジェイムソンはソシュール、フォルマリズムの「共時・通時の対比」を経て構造主義の批判に至る。 言語の牢獄とは「構造分析が対象言語の位に移り、それがもっと複雑な体系に吸収され今度はその体系がそれを説明する(p219)」というメタ言語の「無限の構…

「時代病」吉本隆明・高岡健

高岡は上野千鶴子の授業で女子生徒全員が性的被害があると手を挙げたことに関して実際の被害経験ではなくバーチャルリアリティの被害なのだと断定するが、だとするならばなぜバーチャルな場ではなく現実の場において手を挙げて告白しているのか。バーチャル…

「経済的理性の狂気」ハーヴェイ

ハーヴェイはマルクスが「資本論」で示唆した方法、系統的論述によって資本の内的運動法則を分析する手法に批判的検証を加えている。ハーヴェイによればマルクスは価値生産を重視しすぎており、価値実現(流通)や分配(利子生み資本の優位性)への言及が不…

「コスモポリタニズム」ハーヴェイ

ハーヴェイはマーサ・ヌスバウムが提唱するコスモポリタン的教育体系(p28)には地理学的理論が不可欠な一部として組み込まれなければならない(p493)とする。 カントが明示的に論じたように地理学と人間学はすべての知識の可能性の条件だからである…

「日の名残り」カズオ・イシグロ

執事スティーブンスにとってファラディに受けそうなジョークの練習とはミス・ケントンとの間に築くことが出来なかった「人間的な温かさ(p296)」を作りだす試みといえる。執事としての仕事と捉える点にスティーブンスの性質が現れている。 婚約の申し出を…

「コミュニズムの仮説」バディウ

バディウによればコミュニズムの理念とは「彼自身の家から遠く離れた場所、日常の規則化された生活様式のパラメーターとは遠く隔たった、例えばマリ人の労働者の宿泊所、あるいは工場の入り口などに連れて行く(p205)」という類いの「真理の場所を決定す…

「真昼の盗人のように」ジジェク

ジジェクはリベラリズムをシステムを変えずにシステムを批判していると批判する。 特にやり玉に挙げられているのはアイデンティティポリティクスだろう。ジジェクはミートゥー運動はロザラム事件のような貧困白人女性を狙ったパキスタン系のギャングを問題視…

「迫り来る革命」ジジェク

本書はレーニン主義をラカンの精神分析によって解釈・修正している。 典型的なのはレーニンの反映論への批判だろう。レーニンがいうように事実認識として外部に端然と在る客観的現実ではなく、私自身がまさにそうした現実の一部としてあるため、客観的知識は…

「ニュー・アソシエーショニスト宣言」柄谷行人

社会主義をロシア革命以降のイメージから脱却させるのが本書の目的である。柄谷は新しい社会主義をアソシエーショニズムと呼んでいる。アソシエーショニズムは内在的運動(マルクス主義)と超出的運動(アナーキズム)の綜合であるが、柄谷の関心は超出的運…

「人種と歴史、人種と文化」レヴィ・ストロース

「人種と歴史」が人種主義を標的にしているのに対し「人種と文化」はグローバリズムを問題にしている。2つの論考の間の「断絶」(p8)が問題にされたというが、重点が移動した背景にある「世界文明」の変化を見失ってしまっては元も子もないだろう。 多様…

「それをお金で買いますか」マイケル・サンデル

サンデルによれば腎臓を売買すべきではないという立場は2つに分かれる。 まずは公正性の立場。腎臓を売買する市場は腎臓を売る以外に金銭を得る手段がない貧しい人間を搾取するためたとえ自発的な取引であっても公正ではない。 次に腐敗の立場は臓器市場自…

未来のルーシー 中沢新一・山極寿一

京都学派の現代的焼き増しといえる本書の観点は認知革命以前のレンマの重視が西洋的合理主義、因果論へのアンチテーゼとなっている。 フェルマーの定理で光が最短距離をとることが物質の中にある目的論的構造(p158)だとするとモノと人間に連続性がある(…

「移民とAIは日本を変えるか」翁邦雄

「女性や高齢者の労働供給が弾力的になされていなければ、賃金上昇はより大きくなっていたと考えられる」(p46)というが、女性や高齢者のような移民ではない人々の労働参加が賃金を低下させているなら、それは移民の問題ではない。 「彼(ハルバリアン)は…

「自己責任の時代」ヤシャ・モンク

筆者は自己責任論において懲罰的責任像から肯定的責任像への転換を試みている。肯定的責任像とは現代の責任論を①責任観念、と②結果責任に区分した上で①に肯定的で②に否定的な立場を意味する。 ①に肯定的な責任論は責任否定論への批判として展開されている。…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

この映画はリーとランディの軸とリーとパトリックの軸が交差する地点でちょうど終わっている。リーの兄ジョーの急死によってその息子パトリックの管財人となったリー。仕事や女性関係にまったく意欲を見せないリーは過去ランディとの間にできた子供たちを自…

中核VS革マル

筆者は内ゲバを公安のグランドデザインとみており、この点において中核派のKK連合論に近い見解を披露している。 書物全体の印象から言っても革マルの権力の謀略論を中核派の機関紙によって否定する記述の傾向はどちらかと言えば中核派の方が革命組織として正…

中核VS革マル

筆者は内ゲバを公安のグランドデザインとみており、この点において中核派のKK連合論に近い見解を披露している。 書物全体の印象から言っても革マルの権力の謀略論を中核派の機関紙によって否定する記述の傾向はどちらかと言えば中核派の方が革命組織として正…

彼女たちの連合赤軍

歴史の不在という歴史認識の決定的な欠如。 歴史とは自己意識の上昇過程である以上、歴史意識は欠如したとしても歴史としては回帰してしまうのである。 歴史がオウムかTVゲームでしかないなら大塚の唱える「矮小なるものの歴史化」も反動であり安易な正史へ…

新対話篇 東浩紀

1から10まで幼稚な言い訳に満ちている。 しかし根本的な問題は複数性の認識が甘い点だろう。 過去に遡って複数性の未来を虚構として残したところで、宝くじを買うお金は生活資金から捻出している事実は変わらないのである。 本当の事が虚構を通して語られ…