マンチェスター・バイ・ザ・シー

この映画はリーとランディの軸とリーとパトリックの軸が交差する地点でちょうど終わっている。リーの兄ジョーの急死によってその息子パトリックの管財人となったリー。仕事や女性関係にまったく意欲を見せないリーは過去ランディとの間にできた子供たちを自らの過失で失っており、最終的にジョーの友人ジョージにパトリックを預けることで独身生活に戻る。リーがパトリックと同居できないと悟ったのはランディにもう恨んでいないと言われたにも関わらず夢に娘が出てきた際にフライパンで火にかけていたソースを焦がすミスを犯したためである。そういう些細なミスもで暖炉の些細な不始末ですべてを失ったリーにとっては深刻なものだった。そして殴られたリーを心配するパトリックは夢に出てきた二人の娘と重なっている。

パトリックも当初は伯父のリーに対してないがしろにするような扱いをしていたが、自分の母親が再婚相手に気を使い、宗教に依存しているを見て、宗教やアルコールに逃避せずパトリックや自身の生活に向き合おうとするリーを見直す。パトリックもリーに感化されて徐々に変わっていく。

しかしながら、リーとパトリックの関係は始まると同時に終わるのである。ランディももうリーを恨んでいないがジョーの埋葬の時には自分の息子と夫を連れてくる点でランディ自身が言ってるように心が壊れているのかもしれない。

登場人物は自らを語る言葉を持たず、なにか運命的ともいえるような日常生活の中に埋没している。パトリックも反発はしているもののリーがボストンに越すといっていることそのものに反対しているわけではない。リーのパトリックに対する感情も母親の現状に対するパトリックの複雑な心情をくみ取るものではなかったりとどこか投げやりな印象である。

リー自身が新しい生活をどう思っているか、ジョージと同居するパトリックが何に拘しているかは見ているものが想像するしかない点で、映画の終わり方はどちらとも受け取れる。