「城」フランツ・カフカ、新潮社、1981年

カフカの「城」は①Kが誰かという問いと、②フリーダの真意の二つを巡る物語であると考えられる。①の問題で最も重要な観点は「Kが測量士ではない」ことだろう。Kの非測量士性は「してみると城はやはり彼を測量士に任命したわけだ。これは一面ではKにとって具合の悪いことだった」という第三者視点の描写やKがオズワルドとの電話で「ヨーゼフ」という「測量士の助手」を名乗る描写に明確に示されている。Kの目的の多義性はこの非測量士性に起因していると考えられる。お内儀がフリーダにKは彼女をクラムに近づく道具として利用していると指摘するが、この見解はお内儀がクラムに見捨てられたという立場からきていると考えられる。お内儀のフリーダへの愛憎を加味すれば、Kがもともと測量士ではなくまたすぐに測量士になろうと思っていない以上、かなり一面的な見方といえる。Kの学校の倉庫の扉を破壊する行為はフリーダとの結婚や村の一員になることへの拒否であると考えられる。そのKと共同生活に踏み切るフリーダもペーピによればクラムや村に対する自身の存在価値を高めるために「一個の無」であるKを利用していると指摘される(②の観点)。これもまたお内儀のように自身の立場を奪われたペーピの妄想と解釈できるが、クラム(ビーズリー)が助手を派遣したと判明した後にフリーダが出て行ったことや、倉庫の扉を破壊したのがKだと自白し続ける助手にフリーダが思わず笑ってしまう描写はフリーダの複雑な性格やその真意を示唆しているだろう。クラムやフリーダの誤算はKが「城」そのものよりも「城」との交渉の過程で知り合った人々、女中部屋のペーピやオルガ、バルナバスやアマーリアのような立場の人々に親近感を持っていた点ではないだろうか。オルガの「あなたがこれらの手紙に一度だって大きな価値をお認めになったことがあるとは思いません。あなたはバルナバスに対する同情からのみ」城との関係(手紙)を求めたという指摘はKの分かりにくい目的に一番近い指摘と考えられる。