丸山真男論 吉本隆明 1962年

荻生徂徠政治学によって命と性を一致させる受動性(朱子学)を振り払ったが、同時に徂徠以前の仁斎の思想そのものや民の生活実感を吹き飛ばしてしまったらしい。

荻生徂徠政治学の目的、町人の興隆から武士の没落を防ぐ、は貨幣経済の発展という意味では農本主義的なイメージに過ぎず現実的な存在ではない。

しかし思想の自立性を説くのであれば、現実の政治に深く関与しつつも農本主義的なイメージに回帰してしまう徂徠の無立場は貨幣経済に欠けている自立性ではないか。思想そのものを投げ捨ててしまうことに思想性を持たせるのが貨幣経済だというのは思想の正しい立場である。

虚構の立場を実存の次元にまで深化させるためには、内側を通じてではなく外側を通じて内側を超える経験が必要だと思われる。