星々の荒野から ティプトリー・ジュニア

ティプトリー・ジュニアの作家性は男性の暴力に虐げられる女性を通じた生命否定にある。

この作家は多産性に対する人類の自己嫌悪こそが女性に対する暴力の原因であるとし、嫌悪感にたびたび同調する。多すぎる人口が生態系に与える破壊は登場人物を悲惨な結末へ導く。「天国の門」の善人以外の残りの人類を全滅させ、「ビーバーの涙」で近所迷惑な隣人と環境を変化させるために狭い空間に閉じ込められ、「時間割の天使」で人類は兄弟間で目覚める時間を分割する。

多産な人類に対する嫌悪は男性の暴力として物語のヒロインたちにより悲惨な結果をもたらす。「ラセンウジバエ解決法」でアランは妻と娘を殺そうとするが殺人衝動の中で「この恐ろしい正しさの感覚」を感じたのは天使や宇宙人がもたらした幻覚だとしてもひとつの解決法ではある。「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ」の精神病女性にしても彼女の妄想がレイプされ殺害されたことで家族の生活は「正常化」された。これらの解決法は最終的にすべての人類を絶滅させるに至る。

「スロー・ミュージック」においてもアダムとイブのような男女は霊的な存在にならずに地上で生きることを決意するが女性が生まれてくる二人の子供のミルクを取るため、牛を追いかけたために河に取り込まれてしまう。

「たおやかな狂える手に」は遠く異星人〈同胞〉を求めて宇宙を旅してキャロルは恋人に出会うが、恋人たちはそれぞれの社会の異分子であるがゆえに地球・アウルンに利用されている。この点で「われら夢を盗みし者」のジェライニ同様、彼女らには死以外の行き場など無いのである。