「経済的理性の狂気」ハーヴェイ

ハーヴェイはマルクスが「資本論」で示唆した方法、系統的論述によって資本の内的運動法則を分析する手法に批判的検証を加えている。ハーヴェイによればマルクスは価値生産を重視しすぎており、価値実現(流通)や分配(利子生み資本の優位性)への言及が不…

「コスモポリタニズム」ハーヴェイ

ハーヴェイはマーサ・ヌスバウムが提唱するコスモポリタン的教育体系(p28)には地理学的理論が不可欠な一部として組み込まれなければならない(p493)とする。 カントが明示的に論じたように地理学と人間学はすべての知識の可能性の条件だからである…

「日の名残り」カズオ・イシグロ

執事スティーブンスにとってファラディに受けそうなジョークの練習とはミス・ケントンとの間に築くことが出来なかった「人間的な温かさ(p296)」を作りだす試みといえる。執事としての仕事と捉える点にスティーブンスの性質が現れている。 婚約の申し出を…

「コミュニズムの仮説」バディウ

バディウによればコミュニズムの理念とは「彼自身の家から遠く離れた場所、日常の規則化された生活様式のパラメーターとは遠く隔たった、例えばマリ人の労働者の宿泊所、あるいは工場の入り口などに連れて行く(p205)」という類いの「真理の場所を決定す…

「真昼の盗人のように」ジジェク

ジジェクはリベラリズムをシステムを変えずにシステムを批判していると批判する。 特にやり玉に挙げられているのはアイデンティティポリティクスだろう。ジジェクはミートゥー運動はロザラム事件のような貧困白人女性を狙ったパキスタン系のギャングを問題視…

「迫り来る革命」ジジェク

本書はレーニン主義をラカンの精神分析によって解釈・修正している。 典型的なのはレーニンの反映論への批判だろう。レーニンがいうように事実認識として外部に端然と在る客観的現実ではなく、私自身がまさにそうした現実の一部としてあるため、客観的知識は…

「ニュー・アソシエーショニスト宣言」柄谷行人

社会主義をロシア革命以降のイメージから脱却させるのが本書の目的である。柄谷は新しい社会主義をアソシエーショニズムと呼んでいる。アソシエーショニズムは内在的運動(マルクス主義)と超出的運動(アナーキズム)の綜合であるが、柄谷の関心は超出的運…

「人種と歴史、人種と文化」レヴィ・ストロース

「人種と歴史」が人種主義を標的にしているのに対し「人種と文化」はグローバリズムを問題にしている。2つの論考の間の「断絶」(p8)が問題にされたというが、重点が移動した背景にある「世界文明」の変化を見失ってしまっては元も子もないだろう。 多様…

「それをお金で買いますか」マイケル・サンデル

サンデルによれば腎臓を売買すべきではないという立場は2つに分かれる。 まずは公正性の立場。腎臓を売買する市場は腎臓を売る以外に金銭を得る手段がない貧しい人間を搾取するためたとえ自発的な取引であっても公正ではない。 次に腐敗の立場は臓器市場自…

未来のルーシー 中沢新一・山極寿一

京都学派の現代的焼き増しといえる本書の観点は認知革命以前のレンマの重視が西洋的合理主義、因果論へのアンチテーゼとなっている。 フェルマーの定理で光が最短距離をとることが物質の中にある目的論的構造(p158)だとするとモノと人間に連続性がある(…

「移民とAIは日本を変えるか」翁邦雄

「女性や高齢者の労働供給が弾力的になされていなければ、賃金上昇はより大きくなっていたと考えられる」(p46)というが、女性や高齢者のような移民ではない人々の労働参加が賃金を低下させているなら、それは移民の問題ではない。 「彼(ハルバリアン)は…

「自己責任の時代」ヤシャ・モンク

筆者は自己責任論において懲罰的責任像から肯定的責任像への転換を試みている。肯定的責任像とは現代の責任論を①責任観念、と②結果責任に区分した上で①に肯定的で②に否定的な立場を意味する。 ①に肯定的な責任論は責任否定論への批判として展開されている。…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

この映画はリーとランディの軸とリーとパトリックの軸が交差する地点でちょうど終わっている。リーの兄ジョーの急死によってその息子パトリックの管財人となったリー。仕事や女性関係にまったく意欲を見せないリーは過去ランディとの間にできた子供たちを自…

中核VS革マル

筆者は内ゲバを公安のグランドデザインとみており、この点において中核派のKK連合論に近い見解を披露している。 書物全体の印象から言っても革マルの権力の謀略論を中核派の機関紙によって否定する記述の傾向はどちらかと言えば中核派の方が革命組織として正…

中核VS革マル

筆者は内ゲバを公安のグランドデザインとみており、この点において中核派のKK連合論に近い見解を披露している。 書物全体の印象から言っても革マルの権力の謀略論を中核派の機関紙によって否定する記述の傾向はどちらかと言えば中核派の方が革命組織として正…

彼女たちの連合赤軍

歴史の不在という歴史認識の決定的な欠如。 歴史とは自己意識の上昇過程である以上、歴史意識は欠如したとしても歴史としては回帰してしまうのである。 歴史がオウムかTVゲームでしかないなら大塚の唱える「矮小なるものの歴史化」も反動であり安易な正史へ…

新対話篇 東浩紀

1から10まで幼稚な言い訳に満ちている。 しかし根本的な問題は複数性の認識が甘い点だろう。 過去に遡って複数性の未来を虚構として残したところで、宝くじを買うお金は生活資金から捻出している事実は変わらないのである。 本当の事が虚構を通して語られ…

山口敬之による強姦事件

この事件は単なる性犯罪ではなく権力の問題を含んでいる。 司法警察員や担当裁判官が犯罪事実を認めたからこそ逮捕令状が発布されたのである。しかし内閣審議官中村格という権力の一存によって執行を中止された。 権力者の側近であれば司法制度すら歪めるこ…

勝ち負け論についての考察

経済社会的な劣位性に対し観念的な優位性を説くときに必ずある躊躇いが生じている。 確かに「勝ち組」「負け組」という判断基準には現実社会の搾取・非搾取の恣意性が認識されていない。生育環境のような外部要因も考慮されていない。 しかし「人生は勝ち負…

子宮頸がんワクチンの副作用

副作用否定派は子宮頸がんワクチンの副作用は因果関係が証明されず統計的にも有意ではないという。因果関係が証明できないのであれば統計的にどの「指標」でもって有意になるか分からないではないか。 潜在的なリスクがあるこそ、厚労省はリスク回避のために…

防災の自己責任論

日経新聞は防災も自己責任だと言う。つまり犠牲者たちは防災意識が足りなかったために被害にあったと言いたいのだろう。 10月14日の「もう堤防には頼れない」と題した記事によれば、堤防に水害を防ぐ効果はなく、堤防のかさ上げをしても人口減少が続く中…

トロッコ問題の正解

岩国市の小学校でトロッコ問題の授業をやり、校長が謝罪した。 「5人を救えるなら1人を犠牲にしても構わない。なぜなら5人の方が1人より多いから。」 この小学生でも分かる解答が保護者にも学校関係者にも完全に正解に思えたから、彼らは不安のクレーム…

皇室予算の推移

皇室の予算は71年間で626倍、物価は33.2倍になっている。 つまり皇室予算は物価の18.8倍のスピードで増額されてきたということである。 安倍政権の7年間だけ見ても皇室予算は73億円増えている。その一方で社会保障費は7年間で4.2兆円減…

消費増税について 19年9月30日

消費増税の目的は低所得者や零細事業者に身の程を思い知らせる事だろう。これは資本主義の自滅を意味する。 社会保障の財源やプライマリーバランスの黒字化のようなもっともらしい理由をつけているが、分離課税の廃止や金融取引税の創設を行わない理由は全く…

日韓問題の本質

慰安婦批判の本質は日本社会が対外的な加害者性を認識できない点にある。この加害者性の否認は国内的な被害者性が問題になる場合に阻害要因に転ずる。 慰安婦の「強制性」は当時の日本政府の方針として慰安婦政策が行われた事実にしかない。92年に公開され…

心的現象論 吉本隆明

幽霊のような静けさによって心的な世界はすべての事象と結び付けうるというが、逆もまた然りである。 吉本が言うように現実の世界が心像に有形・有声として関与できないのであれば、一般夢が民族や言語によって異なる多様性を説明できない。 自己妄想によっ…

表現の不自由展中止に関して

運営は安っぽい脅迫を建前にスポンサーに対する配慮から不自由展の中止を決定した。この対応は二重の意味で表現の自由を裏切っている。 文化庁や麻生グループの助成・協賛を受けながら行われる表現に自由はない。スポンサーの意向があるだけである。そして最…

人間の条件 ハンナ・アーレント

活動的生活の中で最高の地位を与えられた活動は古代ギリシアにおいてさえ可能性としてしか見いだせない。リアリティとしての出現の空間はアテネの栄光を永遠の記憶として物語を残したが、当の活動は危機に瀕して許しと約束による救済を求めている。 イエスは…

自衛隊・米軍一体化の目的

自衛隊と米軍の一体化はアメリカによる間接統治のオプションである。 自衛隊の憲法明記は集団的自衛権を行使するためだけではなく、自衛隊の軍事独裁=アメリカの別ルートを確保するために行われる。 自衛隊の前身である警察予備隊がポツダム政令で作られた…

桜島 梅崎春生

桜島に暗号特技兵として赴任することになった私はある町で耳がない女からそこ(桜島)で死ぬのねと死の予兆を受ける。桜島での軍隊生活は戦争によって心の中に鬼を住まわせた吉良兵曹長の死生観と人間が蛾のようにもろく亡んでいくことを「奇体に美しい」と言…