産業革新投資機構と日産

産業革新投資機構の取締役が辞任した。産業革新投資機構とは09年に設立された産業革新機構の後継である官民ファンドである。記者会見で田中正明社長は機構の設立趣旨と所管省庁である経産省の方針が異なったことが辞任の理由であるとした。報道では経産省が提示した報酬案が撤回された事が大きく取り上げられたが、取締役たちが問題にしたのは報酬の額というより報酬委員会が報酬額を決定するというやり方だったように思う。

報酬の額が高すぎる云々は今の格差社会の視聴者に受け入れやすい常套句で偽装された言葉であり、検察や経産省の目的は別だろう。

問題は経産省が9月に提示した案をなぜ11月に撤回したたのか、また12月3日にJICの予算案を認めないところまで行ったのか。

背景にあるのは先月逮捕されたカルロス・ゴーンの問題だと思う。日産の取締役が会長を務める産業革新機構が日産のルノーに対する出資比率を引き上げるために融資を行うのは十分あり得るからだ。その下準備として日産には産業革新機構の所管省庁である経産省から社会取締役が就任している。しかしそもそも産業革新機構民業圧迫をしないために融資の制限を行ってきた経緯から見てルノー経営統合される日産に融資を行うのは機構の設立の趣旨に反する。こういった不条理を田中社長は言外に指摘していたように思う。

金融庁の元参与だった田中社長たちの辞任にどの程度JICの大株主である財務省の意向が反映しているかは今のところ不明だが、11月に投資計画の改善計画を策定する仕組みの提言を行うなどJICへの管理強化に向けて動き出したことと無関係ではないだろう。

カルロス・ゴーンらと日産を告発した金融庁の審議会、証券取引等監視委員会も委員長は元名古屋高検検事長であり、検察の影響下にある。ゴーン逮捕に端を発する企業統治の問題は規制サイドと実務サイドの対立として財務省金融庁の内部にまで持ち越されていくだろう。

重要なのは経産省財務省や検察、官民ファンドと言った「公」の論理が「民」の論理よりも強く働く局面に日本社会が入っているということだろう。